[大森理恵先生の御選評]
この作者はうちのお弟子さんの中では一番の優等生である。例えて言えば学校の生徒会長さんのようなタイプ。(笑)お言葉使いも態度も全てパーフェクト、レッスンの折に作って来られた10句に没句がないのだ! ダメ句でも少し添削すると必ず良くなる。不思議な方だ。まだ俳句を本格的に学ばれて今日で十カケ月目を迎えるが殆どの作品が暴走していなくて優等生タイプ。(なので欲を言えば、もう少し没句になってもよいので冒険して欲しい時もあるのが本音 笑)が三人三様でそれぞれが違って良い!!!
この作品は措辞の『手のひらに載る絵本』のフレーズが素敵だった。なので、その措辞を活かす為に今の季語の【青梅雨】を上五に持ってきた。同じ【梅雨】でも色々な言葉がある。今日の雨は台風の影響か?はたまた【男梅雨】なのか?それは、どちらでもよいがこの作品は季語がピタリと効いた叙情のある可愛いい作品である。
[大森理恵先生の御選評]
【赤翡翠】は別名、俳句用語では【深山翡翠】【水恋鳥】【雨乞鳥】【南蛮鳥】【きようろろ】と呼ぶ。特に私達は【水恋鳥】が綺麗なので、この季語を使ってきた。が一般的には強い季語としては、やはりお馴染みの三夏の季語としての【翡翠】カワセミである。作者は愛鳥家の重鎮でもあるから今回、【赤翡翠】を上手く使われた。措辞の上五からの『雨を呼ぶ燃ゆる火の鳥』が【赤翡翠】にピッタリである。
作者は気がついてはおられないと思うがこの上五の『雨を呼ぶ』は確かに【赤翡翠】の特徴なのだ。が今月の句会の兼題が難しい【落とし文】という季語である!
【雨を呼ぶ宇治十帖や落とし文】by理恵
たまたま、この上五をこの【雨を呼ぶ】の措辞を覚えてくださっていたのか?それとも偶然なのか?わからないが【一句一章】の作品として【赤翡翠】を使われたのは大成功である!!! 然も感動したのは中七の『燃ゆる火の鳥』のフレーズである。鳥と赤翡翠が重なっても此処は構わない。やはり優等生の作者! 十か月目にして素晴らしい【一句一章】の作品である。
[大森理恵先生の御選評] この作品の季語の【青葉木菟】は最も俳人の好む三夏の季語だ。然し俳句に登場した始めは昭和の初期。欅のような大木のある所では良く聞くことが出来る。我々は幼い頃からこの【青葉木菟】の声を聞く為にあちこちと吟行に行った。
原句は余分な語彙の『から』があったからそれを消して特選句にした。この作品の何処が良いのかと言えば『先祖代々顔なじみ』の中七〜下五のフレーズである。とてもユニークな発想だ。作者がキャプションに書いておられるが大切な洞は親から子へと受け継がれているそうだ。さすが、愛鳥家の重鎮さん!!! 大きさは大木葉木菟より勝っているが鳴き声を頼りにしても見つけることは実に難しい。木菟は、どの種類でも耳羽が立っているのだが【青葉木菟】は、それがなくて頭が可愛いく丸い形をしている。(榮子さんチャームな【青葉木菟】の温写真をありがとうございます。)ともかく、この作品は余分な『から』を引き算にして特選句になった。
原句は、【青葉木菟先々代から顔なじみ】でした。 アオバズクは、毎年出会いを楽しみにしておりますが、親鳥が明らかに変わったと思える年があります。大事な洞は、親から子へ受け継がれているのではないかと不思議な気持ちになりました。理恵先生にご添削いただき一層その思いが句に表れたように思います。理恵先生 いつも手厚いご指導をいただきありがとうございます。
[大森理恵先生の御選評]
この作品を見て驚いた。優等生の作者が『一夜のちぎり』とは! まぁ俳句は【実にゐて虚に遊ぶ】文藝ですから、作句では多いに結構だ。でないと全ての作品が説明句や日記になる。
この作品は作者に聴いてはいないが、もしかして徳富蘆花の名作【不如帰】ホトトギスのイメージで作られたのではないであろうか?IQの高い作者はだから『一夜のちぎり』という語彙を使われたような気がしてならない。この小説は明治の大ヒット作品で恋愛小説の走り。浪子と武男の悲恋の物語である。高浜虚子もこの小説を読んで【小説に涙を流す火鉢かな】と読んだくらいの明治の恋愛小説では【金色夜叉】と共にベストセラーと騒がれて映画にもなった。
↑は全て、私の想像に過ぎないし万が一違っていたら榮子さんごめんなさい。だが、私にはこの作品の上五から中七にかけての『鳴きあかす一夜のちぎり』のフレーズがどうしても徳富蘆花の明治の恋愛小説の大作の【不如帰】と被って仕方ないのだ。
大伴家持もホトトギスを『暁に名告りなくなるほととぎすいやめづらしく思ほゆるかも』と万葉集の中でホトトギスの鳴き声を名告り求婚として詠んだ。それほど古来からホトトギスの鳴き声は私達にとって心を揺るがす最も魂を打つ鳴き声である。
もしも作者が徳富蘆花や大伴家持の作品をご存知でこの作品を詠まれたならば特選句。いやご存知なくてもこの作品は読めば読む程、味わい深い特選句である
[大森理恵先生の御選評]
さすがは愛鳥家の重鎮さんの一句である。御写真も素晴らしい!!! さすがである!!!
季語の【三光鳥】の尾羽を『天女のやうな』とお見事な措辞!!! (原句の『ごとき』と私が添削した『やうな』は同じ意味であるが読んだ時のリズムが違うので『やうな』と直した。)とても美しい措辞である。
ところで昔から三光鳥は『月ツキ日ヒー星ホシ、ホイホイ』と啼くからこう呼ばれていると学んだのだが、私は三光鳥の啼きごゑを聞いたことがない。これは真実かどうかご教示頂きたい。なんと言っても、この季語の特徴は美しい尾羽にある。それを具体的に美しい措辞に例えられた【一句一章】の作品には拍手をお送りしたい。見ているだけで優しい気持ちになる作品である。
[大森理恵先生の御選評]
この作品は先週のレッスンで一番に特選句に頂いた。季語は【滴り】これは非常に難しい! 作品が無機質なのだ。『作者の外界と呼応する自己の内面的な作品である。』と言うと、もっと難しくなるが…笑笑笑 作者は哲学が大好きな方で多くの哲学書を読まれてきた。私が驚いたのは下五の【虚空かな】のフレーズである。
季語の【滴り】に光の差して←ここまではかなり具体的な言い方だ。然し答えが【虚空】とは実に虚無感や寂寥感に満ち溢れているではないか!レッスンの中での幾つもの作品の中で最も感心した一句である。
この句は多くの読者のファンからは意味不明と言うお答えが返ってくるかもしれない!がこの作品自体が哲学なのだ。【滴り】という具象的でありとても難しい季語に対して【光の差して】と明るい語彙を持ってきてラストの〆が【虚空】!!! 私はこう言った。哲学的な作品も大好きである。
まだ一年に満たない作者がこのような難しい作品を作られるとは実にお見事! さすがは才女である。この作品は感覚や感性で感じて受け取って頂きたい。意味が深くわからなくても良いのである。それこそ【魂】で感じて頂きたい! 要するに、この世の中の全ては【無】ということだ‼️深い深い意味のある特選句である!
[大森理恵先生の御選評]
これは又、何て美しい一句であろう。さすが、愛鳥家さんの重鎮でもあるし、御写真の大家でもある。
【翡翠】三夏の季語で、あるが留鳥であるから四季折々に見かける。音読してヒスイとも言うが深緑の水辺にいる涼しさを愛でて夏季とすると言われていてる。俳句の季語の場合は赤翡翠(アカシヨウビン)が五月頃に渡来するから俳人の中でもで少しヤヤコシイ季語である。笑と言っても翡翠は羽色が美しく、この作品のように夕陽に照らされると尚、綺麗な羽根を見せてくれる。
こう言った作品は作者にとっては朝飯前かもしれないが、当たり前のことを自然に詠むのはとても難しい。これは作者の独断場の作品であることは間違いない。俳人の中でも翡翠を詠んだ作品は比較的、少ないのと私から見ると、説明句が多い。
唯一、飯田龍太氏(飯田蛇笏のご子息で唯一、最後のイケテる人としても尊敬できる俳人であった)が川端茅舎氏の作品の中で褒めておられる一句がある。【翡翠の影こんこんと遡り】カワセミのカゲこんこんとサカノボリ翡翠の飛翔が素早いので、ことにその鮮やかな羽ゆえにこの擬態語の『こんこん』を高速の飛翔をスローモーションで捉えた作品として、この【一句一章】の作品を鑑賞しておられる。
それほど、俳人にとっては難しい季語であるのは間違いない。この作者の御写真はまるで、図鑑に掲載されているように美しい翡翠の写真である。なので余計に【映像の復元】がお見事である。私も一度は夕陽に照らされる翡翠を見たいと願っていたが俳句では作っていてもそれは【虚】であって【実】の風景を見た事がない。これからの人生ではなるべく、季語との対峙の機会を、沢山設けて初心に戻り学ばねばと、心を新たに決意させられた特選句である。
[大森理恵先生の御選評]
この作品はなんと言ってもリズムが良い。特に中七の『雨よ降れ降れ』には参った。とても軽快でリズミカル🎵作者は【一句一章】の作品を作るのは凄くお上手。
元々、俳句は基礎の【一句一章】をしっかりと把握して、季語を深く研究してから【二句一章】へと学んでゆくのが私的には理想なのだがこれも、それぞれのお弟子さんの自由に任せている。私が師に学んでいる時より全てにおいて時代と共に習う方も自由だし縛りがなくて甘いかも、しれないが、うちのお弟子さん達は、揃って三人が三人とも心が綺麗で、とても誠実である。
俳句はその人の【生き方】が大切!皆さん俳句には真剣に対峙されている。それが何より嬉しいし、私の自慢でもある。
この作品も、優等生の作者の作品とは思えないくらいに作品に遊びがある。時には騒音になる【雨蛙】のこゑをユニークな発想に転換された。ラストの下五の【大合唱】も幼児のような純粋な気持ちで作られた。(ちなみに【雨蛙】は【枝蛙】【青蛙】とも言う。)愛らしい、とても可愛いい一句である
[大森理恵先生の御選評]
この作品は実に難しい。基本【滴り】の季語を中七に入れること事態がプロの技。
この作品をレッスンの初見で見せてもらった時にhearingをしたら作者は「【滴り】の季語があまりにも難しいので寝ていても【夢の中】まで出てきました。」と言われた。
此処でも作者の優等生ぶりに感心されられた。そこまでに作者は季語への拘りがある。何とも嬉しい限りだ!
市川節子さんが「吸い込まれそうな一句です」と感想を述べておられるが一人でも、読者がそんなふうに言って下さると実に嬉しい。少しずつでも俳句の醍醐味を味わって日々の生活を潤してくだされば指導者としてこんなに嬉しいことはない。
パッと見た瞬間ではわかりづらいかもしれないが何度も読み込んで噛み締めていると味わいの深い不思議な一句である。レッスンの折には言ってなかったがこうして再度、見ると、やはり深い意味を持ったスペシャルな特選句である
[大森理恵先生の御選評]
この作品は作者らしい格調の高い【映像の復元】が抜群に効いている特選句である。
夕暮れのオレンジと青田の色の対比が美しい。そこに一筋の風が吹いてきた。作者はそれを『風模様』と素敵な語彙で例えられた。まだ10ヶ月で一年にも満たないのにこのような型の出来た作品を作られて驚くばかり!!!
これは前回のレッスンの作品ではなくて前々回かしら?優等生の作者は殆ど没句がない。この一句も始めからラスト迄、引き算されていて余計に風景が見事に見えてくる。また、色、風、匂いの五感が優れている。優等生らしい特選句である。
[大森理恵先生の御選評]
こういう作風は作者の独断場。角川源義師が飯田蛇笏を男性的な【立て句】を作る作家と仰いだが女性では珍しく【立て句】の作れる人だ。格調の高い固有名詞の地名の効いた風格のある作品。
季語の【万緑や】を始めに持ってこられたのも素晴らしい。そして何よりリズムも優れている。中七〜『筑波の嶺に雲ひとつ』との納め方も実に格調高い。【映像の復元】【リズム】と二大とも実にお見事。言うまでもなくダイナミックな特選句。
[大森理恵先生の御選評]
まぁ何と!!! 唖然!!! 作者の心の幅の広さ、深さにはビックリした。これだから俳句は面白い。
くれなゐの薔薇が季語なので相当に熱い燃える御心であろう。昔からアンダルシアのカルメンのフラメンコの舞台でも深紅の薔薇を口に咥えて踊っていた。(実際は野生のカシアと言う花らしいが・・舞台でフラメンコのカルメンは必ず薔薇。薔薇の品種にもカルメンと言う名前があると聞く)然し優等生の作者が、このような作品を作られるとは・・・ビックリ‼️
八月で一年を迎えられるがこう言った作風は始めてなので驚いた。けれど【俳句】は【人生の生き方】本当のことじやなくても構わない!それを【実にゐて虚に遊ぶ】と言う。既に作者も早や一年で【型】が出来つつある。なので、こんな冒険は沢山してほしい。【魂】の世界で遊んで頂きたいのだ!!! 【魂】だけは自由なのであるから、時空を超えて何処へでも飛ばせる!!!
作者は習われ上手な作家の一人である。習われ上手だとあれもこれもと詰め込みの授業になるがIQの高い方なので飲み込みも早くて吸収も速攻だ。俳句の世界で色々な事に挑戦してほしいと思ってた矢先に昨夜のレッスンで出たリズムの流れと中味の濃い【恋】の一句! 勿論、このインパクトの強い作品は素晴らしい特選句である。
句集【ひとりの灯】以降の作品なのだが荷風忌(4月30日)を詠んだ私の句に【荷風忌や薔薇いつぼんの予約席】
がある。この作品は自分でも好きな一句である。忌日は六歳より俳句を学んでから10年目で作句することを始めて認めてもらえた。お弟子さん達には噛み締めてほしい作品である。