- ミモザの絵は、句友の橋口佳子さんの作品をお借りしました。。
[ 黄金の矢を放つごとミモザ咲く ]
[大森理恵先生の御選評]
今回の句会では作者のわからない作品が多々ありました。中でも、この一句は、作者が最後まで謎でした。私は個人レッスンの指導で『ご自分の型を作って型から抜けてください!』と皆さまにご指導させて頂いておりました。優等生の作者は今回、お見事にご自分の型から抜けた作品を出句されました。
ミモザは全員が大好きな春の季語。真理子さんがひいおばあちゃんになられた3月8日の『ミモザの日』にも名句がでてましたね。
挙句の措辞、『黄金の矢を放つごと』という比喩方法を使われて季語の『ミモザ咲く』と止められたのは実にお見事です。
句歴二年未満ですのに比喩という高等なテクニックに大成功した、とても素晴らしい特選句です。
[ 日本地図拡げて春の鳥見旅 ]
[大森理恵先生の御選評]
この作品は唯一、作者が何となくわかった。先ず、此処で褒める箇所は上五からの『日本地図拡げて』の何でもないが具象のある措辞。そして難解な中七への季語の『春』を持ってくる一句の運び方。実は中七に季語を使うのはかなりのベテランでないと出来ないのだ。が作者は、いとも簡単にさりげなく、その高等テクニックを、把握されていた。
そして下五は『鳥見旅』である。この語彙は我々では全く使えない。此処で作者が、わかった。やはり、鳥見の重鎮さんでないと・・・使えない語彙である。普段から『鳥見』という言葉を使い慣れてないと、この言葉は出て来ないのだ。この作品以外は、今回の句会では作者はご自分とは、わからない作品ばかりを敢えて出された、ご様子。けれど唯一、作者のわかった一句であった。
あまり、リズムのことは、うるさく言ってないのだか、自然に身についたようで上五から下五の流れも良い。相変わらず品格のある格調の高いスペシャルな一句である。︎この作品は秀逸作品の中でも迷わず、一番先に選んだ。要するに上五から下五まで難のない成功している句である。
[ たんぽぽの綿毛にひそむ恋心 ]
[大森理恵先生の御選評]
京都は【花曇り】のお空です。そして昨日に比べたら【花冷え】かも?この作品の凄いポイントは中七からの『綿毛にひそむ恋心』です。️これは並の俳人では作れないし、発見出来ない箇所。
私も28歳から、俳句指導をして来て三万人以上の方々の作品を見てきましたが『綿毛にひそむ』➡️『恋心』のナイーブな感性に驚きました。今回の句会ではインパクトが強い作品があり、特選句には入れませんでしたが、この句は【歳時記】に掲載されるような例句なのです。他の方々では、なかなか発見できない発想ですから!
この作者には時々、驚かされます。まだ二年も満たないのに非凡な才能がお存りで何より作品に格調が高くて品性があります。それでいて今回の【たんぽぽの綿毛】はcharm &cute もう、作者の名前をあとで知って、ひつくり返りそうになった10代の少女のような一句でした。
[ 春の野を行きつ戻りつ夕まぐれ ]
[大森理恵先生の御選評]
この作品は、句会での30句の中の一句でした。作者分からずでしたが今回の句会では、かなりレベルが高くて特選句の【天】【地】【人】がずば抜けて良かったので残念ながら秀逸句になりました。
此処での季語は【春の野】が絶対的な意味を持ちます。これが【夏】【秋】【冬】では、かなり動きます。【春の野】だからこそ夕方の薄暗くなった頃、光る風と共に【行きつ戻りつ】と時間や場所の余裕を持ちながら辺りの花を愛でたりして、うろうろと出来るのでしょうね。
『夕まぐれ』=『夕方』の古語ですが、この語彙もしっかりと押さえておられます。何でもない一句ですが作者らしい格調の高い作品になります。この頃は、まだ【佐保姫】と言う難解な季語を御指導してませんでしたが、【佐保姫の行きつ戻りつ夕まぐれ】でも一句として成り立ちますね。けれど、しっかりと【春の野】と言い切られた事が名句となりました。
特選句の三句がずば抜けて良かったので残念ながら秀逸句になりましたが普通のレッスンの折であれば、流れの良いリズムと一句として褒め称えていた事でしょう!文句のつけようのない独立した品格のある名句です。
[ 燃ゆる恋はかなき恋も春夕べ ]
[ ふらここや春のせ歌のせ笑ひ乗せ ]
[ 色とりどり衣ほすてふ春うらら ]
[大森理恵先生の御選評]
この作品は始めの上五からの流れからラストまでのリズムが、とても良い。特に中七の【衣干すてふ】の文語体が、何とも言えずに、柔らかい文体になり良いスパイスとなっている。
この語彙は、勿論百人一首の中の有名な『春すぎて夏来きにけらし白妙の衣干すてふ天の香具山』からの引用であるが、この【衣干すてふ】を上五の【色とりどり】と下五の季語【春うらら】で囲んでいるのは大成功である。季語の【春うらら】が何とも言えず、抜群に効いている!
作者は、こうした万葉集や百人一首、そして過去の人の御本を真摯に学んでおられる。その成果によりこのような、流れのよい、リズムのある名句が生まれた。前回の句会の秀逸作品とは言っても、特選句三句がずば抜けて、良かったので本来であれば、挙句も特選句であるべきレベルの高い一句である。️
[ さんさんさん野にも山にも春の風 ]
[ 足音の遠ざかりたる花の宵 ]
[ 大谷の快挙の報や春届く ]
[ 学び舎の窓の灯りや花の雨 ]
[大森理恵先生の御選評]
京都は昨日から今日も【花の雨】の一日です。今年は、ずっと春は名のみばかりで寒くて、なかなか桜が咲かずに、やっと満開になれば今回の雨で、散り初めています。
作者は難しい季語の【花の雨】にチヤレンンジされました。夜学校舎でしようか?窓の灯りに桜の散りゆく雨がしとしとと降って何とも言えない風情と叙情があります。【花の雨】事態が文学的な季語ですから【学び舎の窓の灯り】とのマッチングが素晴らしいですね‼️
映像の復元の見える素敵な作者らしい格調高い品格のある一句に感動しました。
[ 文机に分厚き封書花の雨 ]
[ 色白の母を恋ひたる花の雨 ]
[ 土佐日記ひと文字ひと文字花の雨 ]
[大森理恵先生の御選評]
この句の一番のポイントは季語の【花の雨】に対して【土佐日記】を持って来られた取り合わせです。
土佐日記は紀貫之が土佐から京都へ戻る時の日々を『をとこもすなる日記というものを…』という序奏から始まる男性の有名な古典の日記。それに対しての【花の雨】が、とても美しく格調高くマッチしているので原句の添削を【ひと文字ひと文字】と繰り返し、文章を読むごと進行形にして力強く直しました。
原句に一語でも使える固有名詞=普遍性があり品格のある語彙があるとそれに合わせて良い添削が出来ます。今回はその最たる一句です。添削して、格調の高くなった、この作品を特選句に頂きます。
[ 京の宿ぽつりぽつりと花の雨 ]
[ 夢叶へ琴の音奏で桜かな ]
[ 漂ひて寄り添ふ二羽や春の鴨 ]
[ 春夕べ風に言の葉届きけり ]
[ こぼれまたこぼれてこぼる雪柳 ]
[ 外つ国の夢を見てゐる雪柳 ]
[ みんな夢堅香子の花うつむきて ]
[ 堅香子や風に揺れたる過去の恋 ]
[大森理恵先生の御選評]
この作品の季語は
【堅香子】=【かたくりの花】である。
先ず第一にこの作品が何故、良いかと言えば『堅香子』のk音、『風』のk音、『過去』のk音『恋』のk音と俳句のオノマトペの中での一番、重要なk音の重なりにある。他の音よりk音の重なりは一番、貴重である。
然もこの一句には四つもk音が重なっている。これは俳句を作句する上で作者には全く、わからない。意図的に作れるモノではないからである。必然ではなくて偶然でしかないのだ。が名句程、偶然にk音が重なるのだ。此処を敢えてワザとは出来ない。これが俳句の醍醐味でもあるし文学的なことばかりではなくロジカルな面でも俳句は右脳だけではなく左脳を働かせないといけないという由縁である。
なので80歳以上の方から認知症予防の為に俳句を始められる方々も多くなってきた。【堅香子の花】は大昔の歌人からも好んで詠まれた。古くからある素敵な花である。快晴の日に花を開かせ曇りの日には俯く様子は、眺めていてもとても可愛いい。色も素敵なのでこぞって、歌人、俳人が好きな花でもあるし薬草でもある。
作者はこの堅香子が風に揺れてるのをご覧なり『過去の恋』を想い出された。これが『実』であっても『虚』であつても構わない。ともかく、流れのよい軽妙なリズム♬の覚えやすい特選句である。