[ 遠き日の父の詠みたる岩桔梗 ] [ もぎたての桑の実甘き夫甘き ] [ くるくると日傘を廻し夫を待つ ] [ ひたひたと寄せ来る波や月見草 ] [ 砂浜や色なき風のこゑのして ] [ 子燕の日差しを避けて貌かくす ] [ 月あかり友のたよりと歳時記と ] [ 秋を待つただひたすらに秋を待つ ] [ 十薬の匂ひたつかな風吹けり ] [ 新しき眼鏡馴染みて明け易し ] [ 森のにほひ草のにほひや誘蛾灯 ] [ 真夏日や真白き鳥の翔びたちぬ ] [ 睡蓮の眠り覚ますや鳥のこゑ ] [ 青かへで葉の重なりて影となる ] [ 草いきれ草の向かふに父のゐて ] [ 短夜の夢の続きは明日にあり ] [ 麦笛やむかし昔の空の色 ] [ 百日紅ぽとんと落ちて方丈記 ] [ 夜濯ぎや山あり谷あり憂ひあり ] [ きりきりと鳧啼く空の黄昏ぬ ]